TONEBOOK1周年。2500件の「音レシピ」から見えた、いまの音作りの傾向とは

TONEBOOKアプリがリリースから1周年を迎えました。
この1年で、公式コンテンツとユーザーの記録をあわせて、約2500件の「音レシピ」が集まりました。

TONEBOOKの音レシピは、動画や静止画、それの説明文に加えて、使用機材を登録できるのが特長です。使用機材一覧の部分では、料理のレシピでいうところの「材料」や「作り方」にあたる情報が整理され、メーカー名や製品名は自動的にタグ化され、検索で引っかかるようになります。

さらに、投稿者自身が自由にタグを付けられるため、

#ドリームポップ のようなジャンル、
#アルペジオ のような奏法、
#ディストーション のようなエフェクト名など、

どういう音を、どういう文脈で鳴らしているのかまで見えてくるのがTONEBOOKならではの面白さです。 ただし、今回の集計は、「数が多いものが最も優れている」という意味ではありません。 

音作りの世界の魅力は、むしろその逆にあります。広く支持される定番がある一方で、誰かにとっての唯一無二の1台、長く愛用している1本、自分だけの組み合わせにも大きな価値があります。 実際、TONEBOOKにはそうした個性あるプレイヤーたちの、個性ある記録が数多く蓄積されてきました。

今回のレポートでは、ランキングとしての面白さだけでなく、多様なプレイヤーが、多様な表現を残してきた1年として、TONEBOOK内の動向を振り返ります。 

検索窓に入力したり、レシピ内のメーカー名 / 製品名をタップすることでも検索ができる

1. メーカー傾向はFenderが最多。SHUREとAKGの多さには「TONEBOOKらしさ」も。

メーカー名別の音レシピの集計では、次のような傾向が見られました。 (単位:件)

Fender:1103
SHURE:1075
AKG:1069
BOSS:613
Marshall:344
Roland:326
ZOOM:290
strymon:280 

もっとも多かったのはFender。
ギター/ベース本体、アンプまで含めて広く使われるブランドであり、TONEBOOK内でも大きな存在感を見せました。 

そして非常に目を引くのが、SHUREとAKGがFenderに迫る件数で並んでいることです。
ただし、ここには明確な背景があります。TONEBOOKの公式コンテンツ撮影で使用しているマイクが、SHUREとAKG社製であるため、この2ブランドを含むレシピ数はその影響を大きく受けています。 ギター本体、アンプ、エフェクターだけではなく、どのマイクで、どう収音したのかまで含めて記録される。これは、音作りを「演奏機材の組み合わせ」だけでなく、最終的にどう音として捉えるかまで含めて共有しているためです。 

マイキングの様子

その次に続くのは、BOSS、Marshall、Rolandといった定番ブランド。
足元のペダル、スタジオ定番アンプ、クリーンの基準機として、多くの投稿で使われていることがわかります。 

一方で、

Vemuram
EarthQuaker Devices
Chase Bliss Audio
Empress Effects
Red Panda
KarDiaN
Effects Bakery
MASF Pedals 

といった、個性派・こだわり派に支持されるブランドも多数登場しています。
ここで大切なのは、上位ブランドが「正解」というわけではないことです。
広く使われる定番がある一方で、TONEBOOKには「自分はこれが好き」と言える機材選びも数多く記録されています。 むしろ、そうした「自分だけの1品」が自然に並んでいることこそ、音楽活動の豊かさを表しているのかもしれません。 

Chilldspot 玲山 2026/5/7 よりRed Panda / TENSOR

2. 歪みはやはり中心。でも主役は「ファズ」

エフェクトタグ全体の傾向を見ると、音作りの中心にあるのはやはり「歪み」でした。 (単位:件)

ファズ:258
オーバードライブ:224
ディストーション:160
ディレイ:155
リバーブ:150

注目したいのは、最も多かったのがオーバードライブではなくファズだったことです。

一般的な使用頻度だけを考えるとオーバードライブが上位でも不思議ではありませんが、TONEBOOKではファズがトップ。

これは、アプリ内で共有されている音作りが、よりキャラクターの立った、表情豊かな方向に向いていることを示しているようにも見えます。

そして、ディレイとリバーブも高い水準にあります。
歪みだけで完結するのではなく、空間系を重ねて音像や余韻を設計する投稿が多く、TONEBOOKらしい傾向が表れています。

ただ、ここでも大事なのは、多いカテゴリだけが価値を持つわけではないということです。
たとえば、件数としては少ないフェイザー、フランジャー、グラニュラー、グリッチといったタグにも、強い個性を持った音作りが詰まっています。
全体傾向を見ることで主流は見えてきますが、TONEBOOKの面白さは、むしろその周辺にある小さくても濃い実践にもあります。 

Homecomings 福富優樹 2026/5/18 より、Chase Bliss / MOOD

3. 音の質感は「クランチ」が最多。極端な歪みより「ニュアンスが出る音」へ

音の質感に関するタグでは、以下の結果となりました。 (単位:件)

クランチ:270
リード:159
クリーン:150
ハイゲイン:90
ローゲイン:88
ミドルゲイン:59
ソロ:37

最多はクランチ。
完全なクリーンでもなく、ハイゲイン一辺倒でもない。

ピッキングやコード感、手元の表情が出しやすい“中間の気持ちよさ”に、多くの投稿が集まっているのは象徴的です。 一方で、クリーンやリード、ソロに関する記録もきちんと存在しており、音の狙いはひとつに収束していません。

TONEBOOKには、「何をよしとするか」が一人ひとり違う面白さがあります。
誰かにとっては絶妙なクランチが理想であり、別の誰かにとっては一切濁りのないクリーンが理想。そうした違いが並列で残っていること自体が、この1年の価値と言えます。 

#クランチ の音レシピ

4. 奏法では「カッティング」「アルペジオ」が上位。音作りはフレーズ前提目線もある

奏法系のタグでは、以下の結果でした。 (単位:件)

カッティング:71
アルペジオ:56
リフ:43
バッキング:22

ここから見えてくるのは、TONEBOOKに投稿されている音レシピが、単なる機材紹介ではなく、「どう弾くか」と一体化しているということです。

特にカッティングとアルペジオが上位なのは印象的です。
どちらも、音の立ち上がり、分離感、余韻の扱いが重要になる奏法であり、質感設計の細かさが問われます。 一方で、件数が少ない奏法タグにも、それぞれのこだわりがあります。

リフをどう立たせるか、バッキングをどう支えるか。
多数派ではなくても、その人にとって欠かせない鳴らし方がある。
TONEBOOKには、そうした演奏スタイルごとの美学も丁寧に刻まれています。 

#カッティング の音レシピ

5. ジャンル傾向は「オルタナ」「シューゲイザー」「アンビエント」系が強い

ジャンル系のタグの傾向は、TONEBOOKらしさがよく表れている部分です。 (単位:件)

オルタナ:290
アンビエント:92
シューゲイザー:76
グランジ:10
ドリームポップ:8

特に目立つのが、オルタナの多さです。
TONEBOOKにおける中心ジャンルのひとつであることは間違いありません。
また、シューゲイザーやアンビエントも存在感があります。
歪み、残響、揺れ、空気感を重ねていくこれらのジャンルは、機材やセッティングの違いが音に直結しやすく、音レシピとの相性も抜群です。

ただし、ここでも件数の少なさは価値の小ささを意味しません。
たとえばドリームポップやグランジのように、件数としては多くなくても、そのジャンルならではの明確な美意識や音像があります。
TONEBOOKに蓄積されているのは、単なる“流行”だけではなく、それぞれのジャンルに対する深い愛着や解釈でもあります。 

#オルタナの音レシピ

6. アンプは「Twin Reverb」と「JC-120」が二大軸

使用アンプの種類では、次のような結果でした。 (単位:件)

Twin Reverb:306
JC-120:282
JCM900:146
JCM2000:56
JVM210H:56
JCM800:12

ここではTwin Reverbがトップ。
フェンダー系クリーンアンプの代表格として、広がりのあるクリーン、ペダルとの相性の良さ、空間系を受け止める懐の深さが、多くの音レシピで支持されていることがうかがえます。

続くJC-120も、TONEBOOK内で非常に大きな存在感を放っています。
日本のスタジオ文化における定番機として、フラットで立ち上がりの速いクリーンは、歪みペダルやモジュレーション、ディレイ/リバーブとの組み合わせでも安定した土台になります。

この結果から見えてくるのは、TONEBOOK内の音作りにおいて、クリーンの基準機としてTwin ReverbとJC-120が二大軸になっているということです。
いずれもペダルとの組み合わせに強く、プレイヤーごとの個性を受け止めやすいアンプである点が共通しています。

一方で、その次に続くのがJCM900、JCM2000、JVM210H、JCM800といったMarshall系アンプです。 Twin ReverbやJC-120がクリーンの土台として機能している一方で、Marshall系の持つ押し出しの強さ、ミッド感、ロック的な迫力もまた、TONEBOOKの中でしっかり支持されていることがわかります。 

SEMENTOS 藤村JAPAN 2026/6/11より、Fender / Twin Reverb

7. 歪みペダルは「OCD」と「BD-2」が双璧。その一方で、愛機へのこだわりも色濃い 

歪みエフェクター単体で見ると、上位は以下の通りです。 (単位:件)

OCD:98
BD-2:96
Sweet Honey Overdrive:50
OD-3:44
BD-2W:44
BIG MUFF:40
RAT2:37
Jan Ray:31
Timmy:27
Plumes:26

TONEBOOKの歪みペダルを象徴するのは、OCDとBD-2の2機種と言えそうです。
どちらも定番ではありますが、方向性は少し異なります。
OCD:レンジが広く、存在感のあるドライブ
BD-2:ニュアンスが出しやすく、クランチ〜軽い歪みに強い

先ほどの「クランチが最多」という傾向ともつながっており、
TONEBOOK内では「単体でがっつり歪ませるための歪み」より、「表情を作るための歪み」が好まれているように見えます。

ただ同時に、BIG MUFF、RAT2、Fuzz Factory、Centaur、Jan Rayなど、
プレイヤーごとの美学が強く表れやすい機種も多く登場しています。

特定の1台を長く信頼して使い続けること、あるいは少し珍しい1台を自分の音の核にすること。 そうした“愛機との関係性”が見える記録も、TONEBOOKには数多くあります。 

Blume popo / 今西龍斗 2026/3/13より、Fulltone / OCD

8. ディレイ/リバーブはstrymonとBOSSの存在感が大きい

空間系の個別機種では、次のような傾向が見られました。 (単位:件)

ディレイ
DL4:55
TimeLine:49
EL Capistan:40
DD-500:36
DD-200:36
DD-6:30
DD-5:25
DD-3:19

リバーブ
BigSky:84
blueSky:69
RV-6:40
RV-5:30
HALL OF FAME:23
FLINT:16

ここでは、strymonとBOSSの強さが際立っています。 strymonは世界観づくりに優れ、BOSSは定番としての扱いやすさと信頼性で支持されている、といった輪郭が見えてきます。

一方で、空間系こそプレイヤーの個性が強く出る領域でもあります。 ディレイタイムの長さ、残響の深さ、原音との混ざり方。 たとえ同じ機種を使っていても、設定次第で音の印象はまったく変わりますし、少数派の機材にも強い魅力があります。

TONEBOOKには、そうした数値化しきれない個人差まで含めて、たくさんのヒントが残されています。 

Blume popo 横田檀 2026/3/13より、strymon / BigSky

9. 公式コンテンツから見えた、アーティストのメインギター傾向

ここからは、公式コンテンツ内で取材したアーティストに限定した傾向も見ていきます。
※ギタリストのメインギターのメーカーです。 (単位:件)

Fender:21
Gibson:5
momose:3
Squier:2
Nash Guitars:2
その他は多数

ここでもやはりFenderが圧倒的でした。 現代の国内ギタリストの現場において、その汎用性と信頼感が改めて見えてきます。

ただし、このリストの魅力は、2位以下にさまざまなブランドが並んでいる点でもあります。
Nash Guitars、g7 Special、D'Angelico、Kanade SOUND DESIGN、Red House Guitars、Freedom Custom Guitar Researchなど、 一人ひとりの選択に、その人の思想や感性が表れています。

つまり、定番が強い一方で、公式コンテンツからも「みんな同じではない」ことがはっきり伝わってきます。 むしろ、その違いこそがプレイヤーの魅力であり、TONEBOOKが記録してきた大切な部分です。 

ネクライトーキー 朝日 2026/3/12より Jersey Girl Homemade Guitars / Nascaux

10. ギタータイプは「JM Type」と「ST Type」が中心

同じく公式コンテンツ内で、使用ギターのタイプを見ると、下記の結果でした。 (単位:件)

JM Type:15
ST Type:14
その他:11
TL Type:5
LP Type:4
SG Type:2
TM Type:2
JG Type:1
ES Type:1
MS Type:1

注目は、JM TypeがST Typeをわずかに上回っていること。 一般的な市場イメージではST系がより多数派に思えますが、TONEBOOKの公式コンテンツではJM系の存在感が非常に大きい結果となりました。

これは、オルタナティブ、シューゲイザー、アンビエントといったジャンルとの親和性を考えると納得感があります。

ただし、ここでも見逃せないのは「その他」の多さです。
分類しきれないモデルや、既存の枠には収まりにくい選択も少なくありません。

音作りは、王道のフォーマットを選ぶこともできれば、自分の感覚に合う少し特別な1本にたどり着くこともできる。その幅の広さこそが、この世界の魅力です。 

11. この1年のTONEBOOKをひと言で表すなら、「定番を土台に、個性を自由に育てる場所」

ここまでのデータを総合すると、TONEBOOKの1年は次のようにまとめられます。

• 機材の土台にはFender / BOSS / Marshall / Rolandなどの定番が強い
• その上で、ファズ、ディレイ、リバーブを活用した質感作りが盛ん
• 音の方向性は、クランチ、アルペジオ、カッティングのようなニュアンス重視
• ジャンルはオルタナ、シューゲイザー、アンビエントが存在感を放つ

※ただし、この結果は「多いものが一番優れている」という話ではありません。
TONEBOOKに集まったのは、売れ筋ランキングではなく、それぞれのプレイヤーが自分の音に近づくために選んだ痕跡です。また、ギターのみならず、ベース、ドラム、シンセ、カリンバ、ハープ、etc...多くの楽器の音作りが記録されました。

そのどれもが尊く、面白い。 多様な個性あるプレイヤーが、多様な表現を残していること。
それこそが、この1年のTONEBOOKを最もよく表しているのではないでしょうか。 

12. これからのTONEBOOKに期待したいこと

1年で2500件という数字は、音作りの知見が検索可能なかたちで蓄積されたという意味でも大きな価値があります。

メーカー名、製品名、ジャンル、奏法、質感。 そしてTONEBOOKでは、マイクやマイキングといった収音情報まで含めて、音レシピとして残していくことができます。

それによってユーザーは、「知らなかった機材に出会う」だけでなく、
どう鳴らし、どう録るかまで含めた音作りのヒントを得ることができます。
そしてそのヒントは、必ずしも上位のタグからだけ得られるものではありません。

たったひとつの投稿、たったひとつの愛機、たったひとつの工夫が、
誰かにとっては大きな発見になることもあります。

TONEBOOKがこの1年で育んできたのは、 ランキングの面白さだけではなく、
一人ひとりの「自分だけの音」を記録し、共有できる文化そのものです。

2年目のTONEBOOKでは、どんな音レシピが集まるのか。
定番の再発見も、新しい個性との出会いも、どちらも楽しみにしています。