
モールに現れた“エフェクターの魔窟”——宮地楽器ららぽーと立川立飛店・ライトミュージック売り場に聞く
ショッピングモール、明るい吹き抜けを抜けて一歩踏み込むと、空気の密度が変わる。
「エフェクターの魔窟」と言われる棚いっぱいの機材。木目の違いまで選び抜かれた国産ハイエンドのギターたち。買い物の合間にふらりと寄った人、遠方から「魔窟」を目当てに来た人、久しぶりに弦を押さえる人——それぞれの「いま」が同じ空間で音になる。
“入りやすさ”と“濃さ”が同居するこの売り場は、モールという場所の特性を逆手に取って「行く理由」をつくってきた。試奏は大歓迎。比べて、迷って、納得できるための導線が用意されている。 総合店の幅広さと、尖った選定眼。そのギャップが個性を形づくる。なぜここにこの「魔窟」が出来たのか。誰に、どこまで届かせたいのか。
売り場の中の人に、ゆっくりと聞いた。

総合×専門で生まれた「魔窟」——受け継がれるカルチャー
── まず、担当の系譜から。いわゆるギター/アンプ/エフェクターの主担当としては3代目にあたると聞いています。歴代のカラーって受け継がれているのでしょうか?
はい。代替わりで「詳しすぎる人」が続いてる感じで(笑)、自分が新しくキャラを作ったというより、宮地楽器のカルチャーとしてディープさが自然と受け継がれてきた印象です。
── 店舗トーンは、初期から“ディープ寄り”だった?
ライトミュージックは特にそうです。モールの総合店として管楽器・鍵盤・楽譜・一部弦楽器まで広く扱いつつ、ギターとエフェクターは意図的に“深く”。ここに来れば“広く手に入るし、深いところも比較試奏で体験できる”——そんな立て付けです。
── ギターの選定は、国産ハイエンド中心でショップオーダーも多いですよね。
はい。スタッフが“最強の一本”を企画してメーカーに仕立ててもらう、という仕組みが定着しています。同一ブランドの仕様違いを横並びで試せる量を意図的に確保していて、木材やピックアップ違い、ネックグリップの差など、オーダー検討の“参照機”が店内にいくつもある。
理想像に近い何かが、1本は見つかるはずです。
── “ディープなものが多い”という評判、店側はどう受け止めていますか?
率直に嬉しいですね。アクセスが最強という場所ではないぶん、「あれを見に行きたい、試しに行きたい」という理由を作ることをずっと考えてきました。
一面のエフェクターコーナーは視覚的にもキャッチーですが、狙いは見た目以上に体験にあります。来て弾いて、比べて、納得して帰ってもらう。そこには手間を惜しまないようにしています。
── 実際の来店者の顔ぶれ、どんな人が多いですか?
週末は本当に混ざり合います。家族の買い物の合間にふらっと来る方、昔ギターを弾いていてまたやりたい熱に火がつく方、遠方から「魔窟」を見に来る機材好き。
モールの利点は入りやすいことなので、落ち着けるサードプレイス的に使ってもらえるのが嬉しいです。試奏だけでも大歓迎なので、オアシスとして寄っていってほしいですね。

試奏は大歓迎——体験を翻訳する売り場
── 試奏のスタンスが印象的です。「試奏は大歓迎」という。
そうです。楽器は、試さないと伝わりにくいものが多いので。
ギターやエフェクターは、他のどの機材と組み合わせるかやそれぞれの設定ひとつで、音の印象がガラッと変わります。だから「知る場」「比べる場」として機能することが、楽器店の価値だと思っています。購入はその先。もちろん見るだけでも大歓迎です!
── 「いざ楽器店に行っても、試奏し辛い」なんて話もありますが、真逆のスタンスですね。
そうですね。文章やスペック表も大事ですが、体感に勝る説得力はない。メーカーの商品説明って専門的で正確だけど、一般ユーザーには価値として伝わりにくいこともある。
そこをユーザー目線で翻訳して接客時にお伝えしています。
── その「翻訳」。例えば、具体的にはどう取り組んでいますか?
まず、概念を短く伝える工夫ですね。似たような外観で細かな仕様違いがあるものだと、「どのモデルで何がどう変わるのか」を1枚の早見表にするなどしています。
あとネットにエフェクターのサウンドサンプルを出す時は、最初にバイパス音を弾いてからエフェクターをオンにして弾くようにしています。オンオフで効果の違いがすぐわかるようにですね。
専門的にいくらでも深掘りできますけど、まずは最初の一歩で迷子にならない導線が大事だと思っています。

音のレシピが射程を伸ばす——TONEBOOKとコミュニティの広がり
── 発信でいうと、TONEBOOKを利用いただいていますよね。投稿方針を教えてください。
TONEBOOKでは、SNSでアップしているサウンドサンプルを、「音のレシピ」のアーカイブとして残しています。新製品の一次情報、意外な組み合わせのオススメ、手頃な価格帯での良い音提案……投稿にあたりコンセプトを設定して、なるべくフラットな環境でバイパス音から聴けるようにしています。
見た人が音作りに役立てられる「答えの一例」を置く感覚ですね。SNSは流れが速くて情報が散りやすいので、アーカイブ性の高い場を持つ狙いもあります。

Bixonic Expandora EXP-2000DR
by 宮地楽器ららぽーと立川立飛店

Umbrella Company Mayonaise Fuzz 裏モード
by 宮地楽器ららぽーと立川立飛店
── 今後、狙っている記録などはありますか?
いくつかあります。例えば、リングモジュレーターとオートワウの組み合わせで“しゃべるような”トーンを作るやつ。見た目の派手さに頼らず、音の意外性で驚いてもらえるかなと。
あと、ジャンパーやDIPスイッチの設定で裏モードに入る系。意外と知られていなくて、「実はこんな使い方が出来たんだ!」と驚いてもらえるのではないかと。価格帯を抑えた「コスパ良い音」企画がSNSでは好評だったので、楽器の敷居を下げる記録なんかもいいかも知れないですね。
── 店頭での効果は実感していますか?
「TONEBOOK見て来ました」は店頭でも増えてきました。TONEBOOKを見られているユーザー層と、うちのお客層との相性はとても良いと感じています。
あとはビルダーさんとの出会いのハブにもなっています。ビルダーさんは自社製品のサウンドサンプルを記録することで、どんな製品なのかを知らせられる。販売店としてはそれを見て良いと思ったものを取り扱いし、販売でお手伝いができる関係が生まれています。数字では語り切れない「つながり」の価値を感じますね。それでいうと、一番は「Dinosauria Effetor」さんとの出会いですね。
TONEBOOK上でビルダーさんが音レシピを記録されているのを拝見して知り、そこから製品取引が開始しました。TONEBOOKをやっていないと出会えなかったです。
── 「Dinosauria Effetor 」さんのエフェクターは入荷したらすぐ売れているようですね。
そうなんです。毎回入荷するたびに1週間以内には確実に売れています。嬉しいことに、今も売れてしまって在庫がない状況です。まずはTONEBOOKの「音レシピ」で気になっていただき、宮地楽器の店頭で実機確認する、そんな流れが出来ていると思います。

尖りを選ぶ理由——そしてこれから
── 品揃えの「尖り」は、戦略的でもあり、単純に好きでもある——その両輪なんですね。
そうです。そもそも個人的に、「個性的な楽器が好き」なんです。楽器の世界は多種多様で一つ一つの個性があるんですよね。(笑)その個人的な好みの上で、店舗としても定番を揃えるのではなく、「他と被らない常軌を逸した売り場」にすることで個性を出す。
結果的に、ディープなものを探せる・比較できる場所になっているのではないかと思います。このような売り場を実現できているのは、ビルダーさんや代理店さんとの良い関係に恵まれているのも大きいです。
── 機材への熱い「愛」を感じます!その選定の基準を、もう少し具体的に教えてください。
まず1つ目に自分が「音が良い」と感じること。自信を持ってご提案したいので。
2つ目に、一定以上の作りの安定感。見た目の個性は歓迎ですが、個体差が大きすぎるとユーザー体験がブレやすいので。日本で販売する以上、ある程度安定する品質は欲しいところです。
3つ目に、どのような方が買われるのか、ユーザーのお顔が具体的に浮かぶものが良いです。購入までのストーリーが描けるブランド・モデルを選定するようにしています。そのために、機材展示会などのイベントにはなるべく足を運んで、ビルダーさんと直接会話し、実機での確信を積み重ねるのも大事にしています。
── 街との関係性はどう考えていますか。立川は音楽熱の高い場所ですよね。
立川BABELなどライブハウスがいくつもあり、大きなイベントホールとして立川ステージガーデンもあります。GREEN SPRINGSなどで屋外イベントも数多く行われ、音楽文化の土壌が厚い。立川市は23区内に比べてアクセス面では少し不便でも、街全体で音楽を楽しめるこの導線をもっと盛り上げたい。周囲の音楽関係者と連携するなど、地域カルチャーとの接点づくりは積極的にやっていきたいと思っています。
街の一部として、音楽文化を育てられるような活動にも広げたいですね。
── 最後に、今後の目標を教えてください。
「エフェクターといえば、あの店」と言ってもらえる存在に。モールという器の中で、総合と専門の良さを高い次元で両立させたい。行くたびに新しい発見がある。買う前でも買った後でも楽しい。そんな「今日は宮地楽器に行ってみよう」と、目的地になる楽器店を、これからも続けていきます。地域の音楽熱と一緒に、店も育っていけたら最高ですね。
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